古い抵当権の抹消
◎古い抵当権の抹消について
【ご相談内容】
祖父名義の不動産について、相続登記をしたいという一般的なご相談がありました。相続手続きを進めるため、不動産の登記簿謄本を取得したところ、抵当権が設定されていました。しかし、ここ数年で設定されたものではなく、大正時代に設定された抵当権で、お客様も特に心当たりがないとのことでした。
このように古い抵当権のことを 休眠担保権といいます。金融機関でご融資を受ける際や相続手続きで不動産の登記簿を調査する際に、この休眠担保権が発見されることがあります。また、大正時代以外にも明治時代、昭和初期に設定された抵当権がそのまま残っているケースも見受けられます。不動産の登記簿謄本を確認する機会もあまりないと思いますので、お客様も知らなかったという場合がほとんどです。
本来の抵当権抹消登記であれば、担保権を持っている人(抵当権者)と不動産の所有者が共同で登記申請する必要があります。
しかし、多くの人が古い抵当権であるがために、
「抵当権者が現在どこに住んでいるのか分からない」
「抵当権者が亡くなっていたとしても相続人が誰になるのか分からない」
といった状況に陥り、抵当権抹消の手続きが難航する形となってしまいます。
しかしながら、抵当権がついたままの状態ですと、不動産の売却ができない場合や新たなローンを組めないといった不都合がございますので、今回は相続手続きと併せて抵当権の抹消手続きについてもご依頼をいただく形となりました。
【解決方法】
◎この度の手続きでは、弁済供託という方法を使用して休眠担保権の抹消手続きを行うこととしました。
弁済供託による休眠担保権の抹消登記の条件は以下の通りです。
(不動産登記法第70条第3項より)
①担保権者が行方不明であること
②被担保債権の弁済期から20年を経過していること ③債権の元本・利息・遅延損害金の全額を供託すること |
上記①②③の条件を全て満たす場合に不動産所有者が単独で手続きを使用することができます。
続いて条件について詳しく説明していきます。
- 担保者が行方不明であること
担保者が行方不明であることとは、抵当権者の現在の所在も既に亡くなっているかどうか死亡の有無も全く分からない状態を指します。
今回の手続きでは、所在不明であることの証明として受領催告書を使用しました。受領催告書とは抵当権者に対して、債務者が「債権を返済します」という意思表示を行う書類です。
休眠担保権の抹消において、この受領催告書を抵当権者の登記簿上の所在地に内容証明郵便として送付し、宛先不明で返送されたものが「行方不明の証拠書類」となります。
- 被担保債権の弁済期から20年を経過していること
弁済期から20年経過していることを確認できる証明書類が必要となります。書類は昭和39年法改正前後にて取り扱いが異なってきますので注意が必要です。
・昭和39年法改正以前の抵当権
改正前の登記簿謄本につきましては、基本的に弁済期の記載があります。ですので、当時の閉鎖謄本を取得し、弁済期を確認することが可能です。
・昭和39年法改正以後の抵当権
改正後の登記簿謄本については、弁済期の記載がありません。つまり、登記簿では確認が出ないため、抵当権設定時の金銭消費貸借契約書等から確認する必要がございます。
今回は昭和39年法改正以前の抵当権でしたので閉鎖謄本を取得し、弁済期の確認を行いました。
- 債権の元本・利息・遅延損害金の全額を供託すること
登記簿謄本(閉鎖謄本)を参考にして、債権額、利息、弁済期などの情報をもとに、抵当権設定日から供託申請日までの、元本、利息、遅延損害金をそれぞれ計算します。
こちらの計算は非常に複雑になりますので、法務省の計算ソフトを利用し、供託金額を算出しました。そして、その金額をもとに、供託課と綿密に打ち合わせを行いました。
以上の通り、①②③の要件を満たすことができて初めて弁済供託という方法を使用することができます。
供託申請は抵当権者の登記簿上の住所地の供託所で行い、③の被担保債権、利息、遅延損害金の全額を弁済供託します。なお、債権額は現在の貨幣価値に合わせる必要はありません。
(※明治時代から昭和初期に設定された抵当権は、債権額が数百円のものが多く、現在までの遅延損害金を含めても数千円程度で済むことが非常に多いです。)
弁済供託後、通常通り抵当権抹消登記を申請します。
なお、その際の必要書類は以下の通りです。
●供託書正本
●抵当権者が行方不明であることを証する書面(内容証明郵便にて返送された封筒) ●被担保債権の弁済期を証する書面(閉鎖謄本) ●所有者からの委任状(代理人の場合) |
上記を添付書面とし、不動産所有者から単独で抵当権抹消登記を行います。
このように休眠担保権の抹消手続きは、事前準備や検討すべき内容について、通常の抵当権抹消手続きとは大きく異なります。
また、今回ご紹介した手続きにおける抵当権者は行方不明の個人の場合でしたが、抵当権者が行方不明でないときや法人の場合、書類が揃わない場合も考えられますので、必ずしも今回の方法で出来るという訳ではありません。
それぞれの休眠担保権に適した方法での抹消手続きが必要になりますので、古い抵当権がついていてお困りの方がいらっしゃいましたら当事務所まで気軽にご相談ください。
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