後悔しない遺言書づくり:知っておくべき注意点と賢い使い方

生前対策として、多くの方がまず検討される遺言書。

遺言書は紙とペンさえあれば自筆で簡単に作成できる。そのようにお考えの方も多いのではないでしょうか。

しかし、ただ遺言書は作ればいいという単純なものではなく、作成時しっかりとした事前準備が必要です。

また、意外と知られていない遺言書の有効活用方法もございます。

今回は、

①遺言書作成時の注意点「遺言書は作ればいいというものではない!~想定外の相続が発生したケース~」

②遺言書の有効活用方法「実はこんな理由で作られている?意外と知らない遺言書の有効活用法」

をご紹介いたします。

 

①遺言書作成時の注意点

「遺言書は作ればいいというものではない!~想定外の相続が発生したケース~」

はじめに

「自筆で遺言書を書いておけば、とりあえず相続は安心」そう考えてしまいがちですが、実際には手続き時に“遺言書で手続きできない財産”が見つかったことで、手続きが複雑化するケースがあります。

今回ご紹介するのは、自筆遺言は有効で“遺言者名義の”不動産の名義変更自体は完了したものの、手続き未了の“遺言者の父名義”の不動産が見つかり手続きが難航した事例です。


事例の内容

遺言者A様が「妹Bの子で姪のCへ、A名義の財産全てを相続させる」旨の自筆遺言を残されていました(B様はA様より前に他界)。自筆遺言は検認済み・要件も満たしていたため、弊所は登記申請に向けて不動産の調査を開始しました。

遺言者A様名義の不動産について手続き漏れを防ぐため、まずは「名寄帳」を取得し、A様名義の不動産の確認をしようとしたところ・・・

なんと遺言者A様のお父様(C様からみるとご祖父様)名義の不動産が名寄帳に記載されており、手続き未了であったことが発覚しました。

ですが、A様が残されていた遺言書では、A様のお父様名義の不動産について名義変更をすることができません。

名義変更をするためには、A様のお父様が作成した有効な遺言書がない限り、A様のお父様のご相続人皆様で遺産分割協議をする必要があります。

その人数を確認したところ・・・ご相続人様は約20人いらっしゃいました。

数次相続(相続手続き未了のうちにその相続人も亡くなってしまい、相続が何回も続けて発生してしまっている状況)が発生しており、相続人の人数が増えてしまっていました。連絡が取れない方も多い場合には、名義変更手続きが難航してしまいます。

しかしながら、相続登記が義務化となった現在、放置した場合には相続人全員に10万円以下の過料が科されてしまう可能性があります。

この度のご相談事例では、お手続きを希望されたご相続人様について、相続人申告登記をご提案いたしました。


遺言書はあるものの手続きができない財産が発覚。そのような状況を防ぐために

自筆遺言は、要件を満たしていれば有効です。しかしながら、「遺言書に書かれていない財産や遺言者本人以外の財産」については、何の効力も持ちません。

例えば、自筆遺言に「不動産全て」という形ではなく、自宅の底地と建物のみ特定して記載されていた場合、名義変更時の調査で非課税の前面道路を所持していたことが発覚したとしても遺言書で名義変更することができません。

★遺言書を作成するにあたり、先代名義のままとなっている不動産や非課税・共有の不動産がないか調べることが重要です!

★専門家への相談

弊所に遺言作成をご依頼いただいた場合には、名寄帳を取得し、非課税や共有を含めご遺言者様名義の不動産の確認しております。

名寄帳に先代名義の不動産が記載されるかについては自治体や固定資産税納税義務者によって異なる可能性がありますが、今回の事例のように名寄帳から先代名義の不動産が発覚する事例は多いです。

遺言作成時にしっかりと調査をすることで、相続登記時手続きが難航してしまう・・・そのような状況となってしまう可能性を低くすることができます。

★名寄帳とは?

その市区町村内で、同じ人が所有している不動産(土地・建物)をまとめて一覧にした帳簿のこと。


 

②遺言書の有効活用方法「実はこんな理由で作られている?意外と知らない遺言書の有効活用法」

はじめに

相続手続きにおいては、お亡くなりになられた方の「お生まれからお亡くなりまでの戸籍謄本」が必要となります。

しかしながら、その戸籍謄本を収集するのが難しいケースがあります。

例えば・・・

〇外国から帰化されており、お生まれから帰化までの戸籍謄本を日本で揃えることが難しい場合

帰化前の国籍が戸籍制度のある国の場合はその国の戸籍を、戸籍制度が無い国の場合はそれに代わる証明書類を取得する必要があります。帰化前の国の本籍等が不明な場合には、法務省出入国在留管理庁という官庁から「外国人登録原票」という書類を取り寄せて調査をする必要がございます。しかしながら、その書類の取り寄せには請求から4か月間以上かかります(2025年11月末現在)。

この場合には、戸籍の収集が難航し、相続手続きの完了までにかなりの時間を要してしまいます。


遺言書の有効活用方法

公正証書遺言を作成しておくことで、相続手続き時に収集しなければならない戸籍を減らすことができます。

公正証書遺言がある場合には、基本的には「お亡くなりになられた方(遺言者)と相続される方」のご関係がわかる最低限の戸籍謄本のみで相続手続きが可能です。

そのため、上記のように帰化前の戸籍が必要となることが考えられる場合、公正証書遺言を作成しておくことで、帰化前の戸籍を収集することなく相続手続きを進めることができます。

ただし、作成時に注意すべき点もございますので、ご検討の場合には一度弊所までご相談ください。


まとめ

遺言書は、ご自身の思いを確実に実現し、相続トラブルを未然に防ぐための大切な手段です。将来の不安を減らし、ご家族が安心して暮らせる土台を整えることができる点に、大きな意義があります。

遺言書の作成に関するお悩みや、「どの形式が自分に合っているのか」「何から始めれば良いかわからない」といったご不安がございましたら、どうぞお気軽に弊所までご相談ください。
一人ひとりの状況に寄り添い、最適な形の遺言書作成をご提案いたします。